発達障害の就労支援 ビジネスマナー伝授へ親奮闘/福岡
http://kyushu.yomiuri.co.jp/magazine/life/911/li_091109.htm
発達障害の子供の就労を支えようと、母親たちが自らビジネスマナーの習得に奮闘している。人とかかわることが苦手なために職場でつまずくケースが多いことから、まず母親が接客などの基礎を学び、家庭で子供に教えていこうという試みだ。
「その件に関しましては、えっと……」
発達障害者の保護者で作る「たけのこ」のメンバー14人が、福岡市中央区の福祉施設「あいあいセンター」で開かれた電話応対のマナー研修で悪戦苦闘していた。
20歳の長女が学習障害(LD)を抱える福岡市の母親(49)は、不在の同僚にかかってきた電話を取ったという設定に緊張し、たどたどしい受け答えになってしまった。
「練習だから気にしないで。慣れれば大丈夫」。障害者雇用を支援する一般社団法人・JSマネジメントネットワーク(福岡県筑紫野市)の代表理事で、研修の講師を務める小山千景さん(51)から朗らかに励まされ、母親はほっとした様子だった。
LDの長女は計算が不得意で、初対面の人と接するのも苦手。高校卒業後、民間企業に就職して窓口業務を担当していたが、入社半年後、初対面の顧客と接するのがつらくて「辞めたい」ともらすようになった。
配置転換を希望し、現在は接客業務のない部署で勤務を続けているそうだ。「娘もやがて職場で先輩になる。人とかかわる力を高められるよう、私がうまく教えてやりたい」と母親は話す。
子供たちも受講へ
たけのこは会員約100人。1990年から子供たちが社会で自立できるように勉強会を開くなどしてきた。マナー研修は8月から始まり、30人の母親が名刺交換や接客など計12回の講義を受けている。来年は子供たちも受講する予定だ。
福岡県春日市の女性(44)は「子供の能力を生かしたい」と受講した。高校2年の長女(16)はアスペルガー症候群の診断を受けており、場の空気を読んで行動することは苦手。だがこれまで簿記検定や英検など八つの資格を取得し、コンピュータープログラマーを目指している。
同市の別の母親(46)の高校3年の長男(17)は、読み書きに障害があるディスレクシア。いじめにも遭ったが、好きな料理の道に進むため調理専門学校の試験を受ける。この母親は「親がいなくなった後のことが不安。常識やマナーをしっかり教えて社会に送り出したい」と話した。
少しずつが大切
小山さんは以前、福岡市のビルメンテナンス会社で社員教育を担当した。仕事はまじめなのに対人関係で苦労する障害者を見て、2月に同法人を設立。障害者を雇用する企業へのアドバイスも行っている。
「日頃から家族で少しずつ訓練することが大切。お子さんが企業の戦力として自立できるように、一歩一歩やっていきましょう」。小山さんはこの日の研修で力強く呼びかけた。
▽たけのこ ホームページはhttp://fuktakenoko.web.fc2.com/
求職者倍増も就職1・4倍
厚生労働省によると、発達障害者が全国のハローワークで求職を申し込んだ件数は、昨年度は562件で06年度(284件)の約2倍に増加。しかし就職件数の伸びは110件から153件と1・4倍にとどまっている。
障害者雇用促進法は、企業に一定割合の障害者を雇用するよう義務づけているが、発達障害者は含まれておらず、雇用対策はまだ十分とは言えないのが現状だ。
家庭で実践 意味大きい/納富・福教大教授
障害者への特別支援教育が専門の納富恵子・福岡教育大教授=写真=に、研修の意義を聞いた。
◇企業側の視点も取り入れて、発達障害者を大切な人材として育てていこうとしているところが素晴らしい。
発達障害者は能力に偏りがあり、社会への適応が難しいが、マナーや対人関係の力がつけば社会に貢献できる。
2007年度に特別支援教育が本格的に始まり、子供が障害に応じた教育を受けられるようになった。しかし一般の中学、高校では就労を前提としたマナー教育までは十分に手が回らないのが実情だ。社会性は日常生活で繰り返し実践することで身につくもので、一緒に住む親が日頃から教えることは大きな意味がある。



